多古米(香取郡多古町)
千葉県3大ブランド米のひとつ「多古米」
全国各地で生産されている稲作は、一般的に10月から11月に収穫・販売されますが、「早場米」は4月頃には田植えを行い、8月のいちばん暑い時期に稲刈りをして出荷・販売されます。「早場米」のメリットは、台風シーズンがやってくる前に収穫が可能で、各県から新米が発売される前に販売できることです。
千葉県は太平洋に面し、外洋に黒潮が蛇行している影響で比較的温かく、その気候を生かして「早場米」が盛んに作られており「関東一の早場米の産地」になっています。千葉県の「早場米」は様々な品種が栽培されていますが、「ふさおとめ」の収穫が最も早く、8月中旬には「ふさこがね」、8月下旬には「粒すけ」と「コシヒカリ」の収穫が始まります。
千葉県は全域で稲作が行われている「米どころ」ですが「ブランド米」として知られているのは、千葉県南部の鴨川地区で採れる「長狭米(ながさまい)」と、いすみ市近郊で採れる「いすみ米(=国吉米)」、そして唯一北部で採れる「多古米」の3つしかありません。
なかでも名前が一番知られているのは「多古米」で、生産地の多古町は下総台地にある香取市、匝瑳市、横芝光町、成田市、芝山町と、九十九里平野に囲まれた場所にあり、九十九里浜から東北方面の玄関口になっていた「香取海」へ抜ける陸路の要衝にもなっていました。
古くから人が暮らし稲作を行っていた土地で、縄文時代の遺跡も多数残っており、平安時代には「千田荘(ちだのしょう)」という「荘園(寺社や貴族たちが所有していた大規模農園)」でした。町の一帯はかつての海底が隆起した土地で、海底にあった時に堆積した魚介類の死骸などの栄養分とミネラルを含み「鮭の遡上の南限」とされ町の中心を流れる「栗山川」の良質な水を得て、旨味の濃い「多古米」が誕生しました。だた、生産地となるエリアが狭く、千葉県産の米全体の僅か2%ほどしか採れないため入手困難の米としても知られています。
地域ブランド取得と多古米グランプリで価値を高める
「多古米」は江戸時代には幕府に献上されており、1963年(昭和38年)にも天皇陛下への献上米に選ばれ、1971年(昭和46年)に開催された「全国自主流通米品評会」では食味日本一にも選ばれました。更に1990年(平成2年)には「日本の米づくり100選」に選ばれ、2014年(平成26年)には「米・食味分析鑑定コンクール」の栽培部門「早場米」において金賞を受賞、2021年(令和3年)には特別優秀賞を受賞と、数多くの賞を受賞した千葉県の中では類を見ない実績を誇っています。
このような希少価値のある米を守るため、多古町農業協同組合は2008年 (平成20年)に「地域団体商標制度」を出願し、「多古米」という「地域団体ブランド」を取得しました。
2012年(平成24年)からは、「多古米」の頂点を決める「多古米グランプリ」が開催されています。「多古米グランプリ」では65歳未満と65歳以上の2部門でのグランプリが決定し、そのいずれかが総合グランプリに選ばれるという、農家を表彰するイベントまで催すことによって、農家の質的向上の取り組みと、ブランド価値を高める取り組みが行われています。
これらの努力の結果「多古米」の品質が維持され、「旨味が強い」「冷めてもおいしい米」とも評価されています。また寿司米としても人気が高く「シャリなら多古米」とこだわる寿司屋も沢山いるということです。
レシピ募集をはじめPR活動も積極的に
2001年(平成13年)に「多古町」に千葉県で10番目の道の駅「多古」がオープンし、「多古米」をはじめ多古町で採れた農産物を販売する等、多古を訪れる観光客で賑わうようになりました。
また「多古米」で知名度と実績を上げてきた多古町は、2021年(令和3年)から「多古米に合うおかず」のレシピを募集し「多古米おかず選手権」を始めました。初年度の第1回は最優秀賞1件、優秀賞3件、第2回は最優秀賞1件、優秀賞が4件、第3回は最優秀賞1件、優秀賞3件と多古米に合うレシピが続々と応募され、そのレシピは多古米グランプリの公式ホームページで公開されています。
多古町の特産物は「多古米」だけではありません。美味しい米を作る肥沃な土地で育つ「大和芋」は1963年(昭和38年)から生産が始まり、今では全国でトップクラスの生産量を誇るようになりました。この「大和芋」は「多古米おかず選手権」のレシピにも登場しています。
多古町は「多古米」を広く知ってもらうために、東京ビッグサイトで開催された「ワールド寿司カップ・ジャパン2014」にオフィシャル米として提供した他、インドやブラジルで開催された「すし調理技術セミナー」でシャリ用として提供する等、海外に向けたPRも行われ、就農希望者と農家を結ぶマッチングサイトの開設や地域ごとの営農組織を作って土地や景観を守るなど様々な取り組みも行われています。
更に「多古米」の生産者で、「多古米王子」を拝命している萩原氏は、SNSで「多古米」についての情報発信を続け、2022年(令和4年)には「町会議員」に初当選して、多古町の更なる発展にも貢献しています。
恵まれた土地を生かし、生産者が競って高品質の米を生産している「多古米」は、これからも千葉の「トップ・ブランド米」として国内はもとより海外にも更に評価されていく事でしょう。
(2024/11/8)