千葉県南部の房総半島にある房総丘陵のうち、加茂川以南の嶺岡愛宕山・嶺岡浅間などの嶺岡山系(みねおかさんけい)の面積約3.2ヘクタールの急傾斜地に、階段のように連なる大小375枚の田んぼが大山千枚田です。
山岳地に位置することで耕地整理が遅れたため棚田が形成され、日本で唯一雨水のみで耕作を行っている天水田です。1999年(平成11年)に農林水産省の日本の棚田百選に認定されており、文化庁の文化的景観の保存・活用事業の対象地域にもなっています。
嶺岡山系独特の蛇紋岩の風化した強粘土質の土壌で、漏水が少なく雨水を蓄えて稲作ができ、美味しいお米を育てる土壌だといわれ、長狭地区で採れる「長狭米」は「日本のお米百選」にも選ばれ、天皇陛下の献上米にも採用されたことがあります。
上皇、上皇后両陛下が2010年9月27日に千葉県を訪問(ゆめ国体)された際に、大山千枚田を視察され、秋の大山千枚田の風景に感動した上皇陛下が、翌年の新年に詠んだ「刈り終へし 棚田に稲葉青く茂り あぜのなだりに 彼岸花咲く」の歌が刻まれた記念碑があります。
●大山千枚田から望める千葉県の最高峰愛宕山
大山千枚田の南側の房総丘陵のうち、鴨川以南の嶺岡愛宕山・嶺岡浅間などの山々は嶺岡山系(みねおかさんけい)と呼ばれています。この嶺岡山系は現在県立嶺岡山系自然公園(けんりつみねおかさんけいしぜんこうえん)に含まれ、県立嶺岡山系自然公園に指定されています。
嶺岡山系の中で一番高い愛宕山は、県内には「愛宕山」と称する山が複数あるため、嶺岡愛宕山(みねおかあたごやま)とも呼ばれています。高さは標高408.2mで千葉県の最高峰ですが、全国の最高峰の中では最も標高が低い山で、山頂には航空自衛隊の防空レーダー施設(峯岡山分屯基地)が設置されています。
嶺岡山系の北側、鴨川市域の西端に位置する高蔵山は標高219m、長狭平野で最も高い場所に位置し、古くから山岳信仰の地で、良弁が奈良時代に開基したと伝わる大山寺があります。江戸期には江戸近郊の観光地として賑わったそうで、山頂には高蔵神社があり、現在もなお神仏習合の名残があります。
峰岡山系と高蔵山に囲まれた自然豊かな土地だからこそ、現在にも引き継がれるおいしい米が作れる棚田が残っているのです。
●棚田が地域と都市を結ぶ懸け橋に
大山千枚田のある鴨川市長狭地区では、1995年に農村の活性化を目指し農業構造改善事業が導入されました。地域の財産として守るとともに地域の活性化を図ろうという活動が始まり、鴨川市は棚田オーナー制度開設し、1997年(平成9年)に大山千枚田保存会を設立、2003年(平成15年)にはNPO法人の認可を受け、その運営を委託されています。
現在棚田オーナーは、法人、個人合わせて約130組で100㎡あたり30,000円(年間)を支払い、「My田んぼ」の耕作権と収穫物を得ることができます。
米の収穫を終えた棚田は、10月から1月にかけてLEDキャンドルやエコキャンドルのライトアップ「棚田のあかり」が行われ、ライトアップが始まる10月には各種イベントも開催されます。
棚田の運営を委託されている大山千枚田保存会は、栽培した大豆で豆腐や味噌作りを体験する大豆畑トラスト、収穫した酒米(さかまい)で酒づくりをする酒づくりオーナー、自分たちで栽培した和綿と藍で織物やりや藍染めなどを楽しむ綿藍トラストなどにも取り組んでいます。
棚田を望む高台には地域資源総合管理施設の「棚田倶楽部」が建てられ、地域と都市からやってくる人々との交流の場や、ベントや体験プログラムなどを開催する場として機能しています。また、隣接した古民家レストラン「ごんべい」では千枚田で収穫した米を使ったランチなどが提供され、訪れる観光客で賑わっています。
棚田の美しい景観だけでなく、環境保全の取り組み、都市部の人たちとの交流、まさに千葉のイチオシです。
(2019/10/10)