美味しい塩で
勝浦に恩返しをする
満月の塩と新月の塩
勝浦塩製作研究所は、勝浦市鵜原にある海水から塩を作る製塩所です。塩作りは新月と満月の日の満潮時に、目の前の海から1.5tの海水をポンプで汲み上げ、風に当てて蒸発させる「かん水」という蒸発作業を行います。それを二つの釜に移して薪火で12時間火入れをして蒸発させ、海水が無くなったらまた海水を追加して12時間の火入れをするという作業を5日間ほど繰り返して、おいしい塩が出来上がります。火入れの作業は特に夏場が大変で、室温が60度にもなってしまい、寿命が縮まる思いです。
僕のサーフィン歴は30年以上で、日本各地に行ってサーフィンをしながら、興味本位でそこの海水を飲む「利き海水」をするのが習慣でした。26年前にこの勝浦にたどり着き、いつもの習慣で海水を飲んでみたところ、すごく「旨味」を感じて「なんて美味しい海水なんだ」と思っていました。それからは勝浦に毎週通うようになり、10年ほど前にはサーフィン用のアパートを借りて週2回の休みには泊りがけでここに来ていました。
海水は重力によって成分が変化します。ここ鵜原理想郷の付近は石灰岩が多い場所で、新月の時に地球の下側からの引力が強くなるため、海水に溶け込んでいるカルシウムが海の表層から中層に多くなるので「まろやか」な塩が出来上がります。一方満月の時には地球の上からの引力が強くなるため、海の表層から中層の海水が大きく混ざってマグネシウムが多くなります。マグネシウムが多い塩は塩味が強く「コクのある塩」が出来上がります。
満月の海水で出来上がった塩は「満月の刻」、新月の海水で出来上がった塩は「新月の煌」という商品名でこの二つの塩を販売しています。料理に合わせるなら肉や天ぷらなどに負けない塩味の強い「満月の刻」がオススメで、素材を生かした魚や野菜などは「新月の煌」がオススメです。販売は飲食店の他、個人向けには自社のネット通販や勝浦駅前のおみやげ販売店で購入する事が出来、今では取引先が50店舗ほどまで広がりました。
鵜原海岸から鵜原理想郷を望む
普段は人が立ち入る事の出来ない勝浦塩製作研究所
この建屋で塩が作られている
鵜原の海水で作った塩「満月の刻」と「新月の煌」
コロナ禍がきっかけで
塩作りを始める
出身は東京の板橋で、僕は一人っ子で幼稚園の時から英会話、ピアノ、エレクトーン、習字と習い事をたくさんやらされて毎日そのスケジュールに追われながら他にも少年野球のチームに入っていました。
小学校4年の時に埼玉に引っ越し、小学校では卓球、中学校ではバレーボールをしていました。そして高校に進学してからは、バイクが好きでレーサーに憧れていた僕はバイクを買うため居酒屋でアルバイトをしていました。
その後カラオケボックスが流行っていた頃だったので、そこでアルバイトを始めそのまま社員になって5店舗位を管理する総支配人までになりました。また芸能界にも憧れ、並行して俳優養成所に通いながら芸能活動も始めていました。エキストラから始めましたが、23歳になって「このままでは食べていけない」とあきらめようとしていた頃、有名芸能人の方の紹介で映画の仕事を始めたものの、それだけでは食べていけないので、その方の知り合いが経営する恵比寿の飲食店で働き始めました。そしてその店で出会った有名俳優に誘われ付き人をしながら、夜はレンタカー会社のナイトクルーのドライバーの仕事をし、好きだったバイクのレースもしていまいた。
その後8年間勤めた付き人は辞めましたが、続けていたバイクのレースで腕を骨折してしまい、翌年その時知り合った方と一緒にフィリピンで開催されたサーフィンの大会に参加しました。その方はフィリピンで芸能事務所の社長をされていて、「フィリピンで芸能人をやらないか」と誘われ、何事もチャレンジするのが好きな僕は、フィリピンでの芸能活動をしてみる事にしました。
モデルから始まり歌手、CM出演、映画、そして視聴率37%を記録したテレビドラマの主役までさせてもらい「フィリピンでは知らない人はいない」までになったものの、入国ビザにクレームを付けられ。続けることをあきらめ日本に帰国しました。
帰国してからは外国人向けに観光などをさせるハイヤー会社でドライバーをしていましたが、コロナ禍で会社は身売りして失業してしまい、このまま都内にいてもダメだと思って東京の自宅を引き払ってサーフィン用に借りていたアパートに移住しました。
半年間は「何かしなければ」と考え続ながら何もせずに過ごしていましたが、たまたま海に入った時に「そうだ海の恵みを使えばいい。塩を作ろう。」と思いつきました。思いついたものの実際に作った事は無いので、悩んだ末ポリタンクを持って部原(へばら)から浜行川(はまなめがわ)までの間の色々な所で海水を汲んではカセットコンロで塩を作ってみたところ、ここ鵜原の海水で作った塩が断トツで美味しい事を発見しました。
塩作りが行われる鵜原海水浴場
今でもサーフィンは続けている